このページでは、遺言書が無効になる場合について詳しく説明しています。
自筆証書遺言・公正証書遺言、それぞれの無効になるパターンを挙げ、無効となってしまった場合どのように遺産分割がされるかについても説明しています。
無効な遺言とならないよう、このページを参考にして、遺言書の作成を行いましょう。
遺言書の方式の種類
遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式の種類があります。
自筆証書遺言と公正証書遺言が多く利用されますが、以下にそれらが無効となるケースを紹介します。
「自筆証書遺言」とは、全文を自分自身で書いた遺言書です。自分一人で書くものであるため、遺言書に求められる書式を備えていない場合が多く、無効になるケースが多いです。
「公正証書遺言」とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、その公証人に記述・作成してもらう遺言書です。公証人という専門家が作成するため、無効になるケースは多くありませんが、無効となってしまうこともあります。
自筆証書遺言が無効になる場合
下記のいずれかに該当する場合、その自筆証書遺言は無効となります。
- 日付の記載がない、日付の特定ができない
- 遺言者の署名・押印がない
- 全部または一部がパソコンで作成されている
- 全部または一部が他人に代筆されている
- 共同で作成されている
- 相続財産の内容が不明確
- 訂正の仕方を間違えている
- 誰かに書かされた可能性がある
それぞれについて詳しく確認していきます。
1. 作成した日付の記載がない、日付の特定ができない
自筆証書遺言が無効とされる場合の一つに、「遺言書を作成した日付の記載がない、日付の特定ができない」というものがあります。
つまり、遺言書には作成日の記載が必要であり、記載がない場合、その遺言書は無効とされてしまいます。
また、遺言書には日付の記載だけでなく、その日付が特定できるような情報も含まれる必要があることに注意しましょう。
例えば、◯◯年◯月吉日というようにある特定の日を指していない記載はNGです。
2. 遺言者の署名・押印がない
遺言者(遺言を作成した人)本人の署名・押印がない遺言は無効となる可能性があります。
署名は、通常、戸籍上の氏名を使用します。ただし、遺言者と同一性を確認できる場合には、ペンネームや芸名でも署名は有効です。
また、押印については、実印、認印、拇印、いずれでも可能です。
ただし、認印の場合は、本当に被相続人が作成したものなのか疑義が発生する可能性があるため、実印で押印することが望ましいです。
3. 全部または一部がパソコンで作成されている
自筆証書遺言を作成する場合、直筆で作成されなければなりません。
2019年からは財産目録のみパソコンでの作成が可能となっていますが、遺言書全体、または一部がパソコンで作成されている場合には、その遺言は無効となる可能性があります。
遺言書には自筆性が求められますので、必ず手書きで作成するようにしましょう。
4. 全部または一部が他人に代筆されている
自筆証書遺言の場合、遺言書の記載はすべて自筆でなければなりません。そのため、全部または一部を代筆した遺言は無効です。
病気や手の震えなどから手書きが難しいという理由で家族が代筆したものであっても、無効となってしまいます。他人による添え手で作成した遺言書であっても、同様に無効と判断されてしまいます。
ただし、財産目録については、他人が代筆しても問題ありません。
5. 共同で作成されている
2名以上で書かれた遺言は「共同遺言」と呼ばれ、民法によって禁止されています。
たとえ、夫婦共同で書いた遺言書であっても、その遺言は無効となります。
6. 相続財産の内容が不明確
遺言書の中では、財産について「誰に、何を、どれだけ相続させるのか」を具体的に記載する必要があります。
曖昧な記載の場合、無効となる可能性があります。
例えば、「銀行預金を子どもに相続する」といった文言では、どこの銀行の預金を子どもの誰にどれだけ相続したいのか分からないため、無効となる場合があります。
「〇〇銀行〇〇支店の〇〇円を長男に相続させる」といった具体的な文言で記載する必要があります。
7. 訂正の仕方を間違えている
訂正の仕方を誤っている場合、自筆証書遺言が無効になることがあります。
訂正すること自体は問題ありませんが、その訂正の仕方には下記ルールが定められています。
- 訂正したい文言に二重線を引く。修正液や塗りつぶしはしないように。
- 正しい文言を、訂正箇所の傍に記載する。
- 二重線の近くに訂正印を押す。元の文字は見えるように。
- 遺言書の末尾あるいは余白部に訂正内容を書き、署名する。
この方法に沿っていない場合、その遺言は無効となる可能性があります。遺言書を作成する際には、十分に留意しましょう。
8. 誰かに書かされた可能性がある
遺言書には、遺言者本人の意思に基づいて作成されることが求められます。
もし、遺言者が誰かに脅されて遺言書を書かされた場合、その遺言は遺言者の真意に反するものとなります。
そのため、そのような「誰かに半ば強制的に書かされた」という場合には、その遺言は無効とされることがあります。
遺言書を作成する際には、遺言者本人が自発的に意思決定を行い、その意思が遺言書に反映されるように注意しましょう。
公正証書遺言が無効になる場合
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家の元で作成するため、書式が条件を満たしていないということはほとんどありえません。つまり、無効になるケースは極めて珍しいです。
ただし、下記のようなケースであれば、公正証書遺言であっても無効となります。
証人になる資格のない人が立ち会っていた
公正証書遺言には2名以上の証人に立ち会ってもらう必要がありますが、その証人には誰もがなれるわけではありません。
下記に挙げる人は公正証書遺言の証人になれません。
- 未成年者(18歳未満)
- 推定相続人とその配偶者、直系血族
- 受遺者とその配偶者、直系血族
- 公証人の配偶者および四親等内の親族
- 公証役場の職員
上記のいずれかに該当する人が証人になっていた場合、公正証書遺言であっても無効になります。
すべての遺言において無効になる場合
遺言書の種類に関わらず、下記のいずれかに該当する場合、その遺言は無効となります。
- 遺言者が15歳未満
- 遺言者に認知症や精神疾患などの症状があり、判断能力がない
1. 遺言者が15歳未満
遺言は、民法961条で定められているように、15歳から作成することができます。
基本的な法律上の行為においては、単独で行うためには成年(18歳)に達していることが必要です。ただし、遺言については15歳以上であれば、法定代理人の同意を得ることなく単独で作成することができます。
しかし、生前贈与や死因贈与について、単独で行うためには成年である必要があります。
2. 遺言者に認知症や精神疾患などの症状があり、判断能力がない
遺言書を作成するにあたっては、遺言者が「遺言能力」を持っていることが前提です。
遺言者が認知症や精神疾患を患っている場合、その人が作成した遺言書は遺言能力のないものとみなされ、その遺言は無効となります。
認知症や精神疾患の有無は、医師が診断書やカルテ、看護記録などをもとに判断します。医師が認知症と診断していたかどうか、またその重症度などが考慮されます。
遺言書が無効だった場合の遺産分割方法
遺言書が無効となった場合、原則として法定相続人の相続分(法定相続分)に応じて遺産を分割します。
「法定相続分」とは、亡くなった方から見て、以下の立場にある人々が認められている遺産の取り分のことです。
- 配偶者
- 子
- 直系尊属(父母や祖父母)
- 兄弟姉妹
これらの人々を「法定相続人」と呼びます。それぞれの法定相続人の法定相続分は以下の表を参考にしてください。
組み合わせ | 配偶者 | 子 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1 | |||
配偶者+子 | 1/2 | 1/2 | ||
配偶者+直系尊属 | 2/3 | 1/3 | ||
配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 | ||
子のみ | 1 | |||
直系尊属のみ | 1 | |||
兄弟姉妹のみ | 1 |
同じ立場の方が複数人いる場合は、割合をその人数で等分してください。
例えば、法定相続人の組み合わせが「配偶者と子2人」だった場合について考えます。
配偶者の法定相続分は表の通り1/2ですが、子1人あたりの法定相続分は、子の法定相続分の1/2をさらに2で割った1/4になります。
また、直系尊属は親等が近い順に優先されるので、父母と祖父母がいる場合、父母のみが法定相続人となります。
遺言を無効にしないための対策
遺言は無効となってしまうと、遺言書の中で記載されている内容は意味をなさなくなってしまいます。
そこで、遺言書作成において、遺言を無効にしないためにできること・注意すべきことをここで解説します。
公正証書遺言で作成する
自筆証書遺言の場合、お伝えしたように、無効となるケースが多く存在します。
一方で、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成するため、無効となるケースは非常に少ないです。
手間や費用がかかるという面もありますが、遺言者の意思を正確に反映し、遺言が実行されるようにするためにも、公正証書遺言を選択することをおすすめします。
自筆証書遺言の場合、書式を守る
自筆証書遺言の場合、書式が守られていないことが無効になるケースのほとんどです。たとえば、日付が特定できない、署名押印がないとった場合です。
自筆証書遺言を作成する場合は、ご自身で作成することになりますので、書式を確認しながら作成するようにしましょう。
専門家に相談する
ご自身での遺言書作成に不安があれば、専門家に相談することをおすすめします。
専門家に相談することで、遺言書作成において気づかなかった問題点を指摘してもらうことができ、遺言を無効にしないための遺言書を作成することができます。
元気なうちに遺言書を作成する
遺言書を作成する場合は、元気なうちに作成することが望ましいです。認知症が進行して遺言能力がないと判断されると、遺言は無効とされてしまいます。
もちろん、作成後に財産の状況が変わることがあると思いますが、その都度変更が可能なので、早いうちに安心して作成することをおすすめします。
まとめ
この記事では、遺言書が無効になる可能性があるケースと、遺言を無効にしないための対策について解説しました。
遺言書は、財産分与などの問題を避けるために必要なものですが、作成にあたっては注意が必要です。
万が一無効となってしまっては作成した意味がなくなってしまいますし、相続人同士の争いの火種となってしまうかもしれません。
有効な遺言を作成することで、自分の意思を確実に反映させ、大切な人たちに残したいメッセージを伝えることができます。ぜひ、この記事を参考に、遺言作成について考えてみてください。